マッチョとウィンプという括りでは表現されない人種

マッチョとウィンプという単語は極限状態にある人間の種類を正しく表していなくて、それではてなで交わされる議論を見るたびに「俺はマッチョじゃないんだけど、でも……」という発言が頻出するんじゃないかと思う。

これは難易度順でもある。最も難しいのは、現実を変えること。次に難しいのは、自分を変えること。そして最も簡単なのは、逃げること。

マッチョとか強者とか言われている人は、例外なくこのことを体で知っている。彼らは強いのではない。自らの弱さを熟知しているだけなのだ。

404 Blog Not Found:逃げ上手は生き上手

現実を変えられる人、自分を変えられる人、逃げられる人、全部がマッチョ? それじゃ話が拡散する一方じゃないかな。

逃げるのは簡単という場合、なんとなく簡単な対処としての逃げる、というのがあるのだけど、自分の実感としては、逃げるというのは倒壊する建物や、勝てない猛獣に向き合うように自然な対応なので、現実的には、そういう自然な対応が心理的・制度的に阻害されているという状況をどう認識するか対処するかという問題だと思う。

 別の言い方をすると、危機の認識が間違っていると、自然に逃げられない。

逃げること - finalventの日記

じゃあ誰が自然に逃げられないんだろう?

逃げる人と逃げない人

極限状態、例えば冬山での生存戦略を論じるために、極端な4種類の人間を考えてみる。軸にするのは筋肉の多寡と、脂肪の多寡。

筋肉が多く脂肪も多い、ガタイのデカい人。
彼らは自由だ。脂肪があるなら冬眠してもいい。寒さも脂肪のおかげで遮断できるだろう。
周囲に快適な環境(例えば立派なログハウス)を建てることもできる。そうするだけの栄養は脂肪に蓄えられているし、筋肉がついているなら力も十分だ。
そして更に、彼らはその環境に見切りをつけて南国を目指すこともできる。スタミナはあるし、猛獣が出てきたら撃退できるだろう。多少の高山がそびえようとも、踏破することは難しくないかもしれない。

筋肉はあまり無いが脂肪が多い人。
彼らの戦略は極めてシンプルだ。冬眠をして、厳しい冬が過ぎるのを待てばいい。サラリーマンの過酷な新人生活だろうと何だろうと、じっとそこに居座って時が経つのを待てば、あとは春が来るということを彼らは知っているのだろう。

筋肉はそれなりにあるが、脂肪が無い人。
彼らにとって冬山は極めて危険だ。栄養の貯蔵庫である脂肪が無いなら常に食料を得なければ飢え死にが待っているし、断熱材としての脂肪も無ければ動いて発熱するしか寒さをしのぐ方法は無い。
彼らは冬山に留まることが死を招くと知っている。猛獣と長時間戦うのが死を招くと知っている。「どうしようもない」と判断することに躊躇しないし、そう判断したのなら一直線に南国を目指すだろう。
もちろん真っ直ぐ南を目指すのは最適解じゃないかもしれない。南だと思った方向は北かもしれないし、うまく南に進んでも待っているのはアルプスかもしれない。猛獣の棲む谷かもしれないし、強固な砦を築いて侵入を拒む人間かもしれない。途中で結局飢え死にするかもしれない。
でも、留まるという選択肢が無いのだから、南に向かって走る意外には無いのだ。

筋肉に乏しく、脂肪も豊富でない人。
彼らにとっても冬山は危険だ。だが、筋肉に乏しいという自覚があれば、あたりを積極的に動き回ることも得策でないように思われる。選択肢は無く、困難は険しい。
行動力に乏しいからか比較的群れるようになり、周囲に似たような人々が散見される。みんなで身を寄せあって暖を取り、できるだけ動かずに栄養を節約する。そうして、厳しい冬が過ぎていくのをじっと待つ。
南国に向かって走って行く奴はすごい。奴等には自分たちには無い筋力があり、だから走っていくことができるんだろう。困難があっても乗り越えられるんだろう。
ここがそれなりに危険な環境だというのはわかるが、でも走っていった先の困難を乗り越えられる筋力は自分には無いから、ここでじっとしていよう。

待つのは集団での凍死だ。じっとしていても養分は減る一方で、筋力はますます衰えていく。
冬が予想よりもちょっと長くなれば、それだけで致命的になるだろう。

ムキムキマッチョマンよりも長距離ランナー

北国の冬山から走り出して南国に着けるのは、ムキムキマッチョマンもかもしれないけれど、多分長距離ランナー型の方が多いだろう。
大事なのは瞬発力じゃなくて、限られたエネルギーを効率的に使って、イーブンペースで淡々と走り続けることだ。道が長くても坂が険しくても、足を止めずに走り続けられる人だろう。

そして長距離ランナーに大事なのは筋肉が多いことでも、脂肪が多いことでもない。脂肪をできるだけ減らし、必要最低限の筋肉だけをつけること。
彼らは実際、筋肉が多いようには見えない。でも走れば驚くほど長距離を走っていくだろう。

その場で環境を変えるだけの瞬発力は出せないかもしれない。
でもログハウス建築家になりたいのでなければ、多分、多くの冬山サバイバリストがなりたいのはムキムキマッチョマンじゃあ無いだろう。

そうそう、冬眠して冬を越せる人になろうとは思わないこと。
それまでの生活でも脂肪を蓄えられなかった人が、冬山で蓄えられるわけがない。

長距離ランナーに必要なのは走り出すこと

もちろん、どんな長距離ランナーも最初からそんな体型だったわけじゃない。
そして長距離は、どんな人でも、地道なトレーニングを「まず始め、そして継続する」ことである程度得意になれる種目だ。

必要な筋力は、走っているうちに少しずつついていく。不要な筋肉は減っていくかもしれない。
そしてもちろん、走り出すのに邪魔な脂肪も落ちていくだろう。
体が軽くなれば「やばい、かも」と思ったときに、きっと体は動いてくれる。毎日の訓練はそういう自信を誰にでも与えてくれる。

経験してみれば、逃げるために走り出す一歩なんて、そんなに重いものでも長いものでもない。